シリコンバレーコラム
日本の起業家がシリコンバレーで表彰される日が来た

シリコンバレーに多くの日本のベンチャー企業が来てプリゼンテーションするというので参加してみることにした。この会は8月5日に当地のインキュベーション施設Plug & Play Tech Centerで開催された。主催者は日米双方でインキュベーションとベンチャーキャピタルを営むSunBridgeだった。SunBridgeの社長Allen Minerはオラクルの日本法人の立ち上げを行い、その後日本でベンチャー企業のインキュベーション事業を開発してきた先駆者である。

発表は二つのセッションに分かれていた。第一部ではグローバルな展開を目指す日本のベンチャー企業16社が発表した。たった3分間のパワーポイントを使っての発表であったが、英語が聞きとりにくく理解するのに苦労した。面白い発表をした会社もいくつかあったが。総じてFacebook、Twitter、iPad、iPhone、Androidのプラットフォーム上で稼動するアプリケーションを披露する会社が多かった。

iPadを使った廉価なPOSシステム、スマートフォンのウェブサイト構築と最適化技術、スマートフォンを使って世界各地でゴミ拾いを推進しこれをGoogle Mapで追跡するサービス、Facebook、Twitter上でチャリティーと寄付を展開するサービス等様々であった。アイディアは確かに面白いが、どのように収入を上げていくのかハッキリしない発表もあった。一部を除き軽いアプリケーションが大半を占めていた。

第二部ではアメリカのベンチャー企業17社が発表した。17社のビジネスは様々であった。電池の長寿命化技術あり、ナノテクを駆使した半導体あり、画像処理あり、ビデオ・サービスありと、分野はかなり広範に分岐していた。アイディアの面白さを競うよりは、いまこの国で注目されている分野のテクノロジー開発に力を注いでいる企業が多かった。ベンチャーキャピタルが既に投資している会社も何社かあった。

33社の発表が終わって審査の結果、4社がスポンサーの名前をつけた賞を受賞した。第一部からは、水の使用量を最小限に抑えて農産物の収穫量の拡大を図る技術を披露したmOasisが選ばれた。いま米国で注目されているテーマに照準を合わせたベンチャーである。同社はスタンフォード大学で、環境の修士とMBAを取得した日本人が社長を務めるベンチャーだった。日本人、中国人、インド人の3人が出資して創業した若いベンチャーである。

ほかの三社はすべて第二部で発表をした米国のベンチャー企業が受賞した。その一社Zeptorはナノ技術を使って電池の効率向上と長寿命化を達成するプロセス技術を開発しているシリコンバレーのベンチャーである。同社はインテルを飛び出した4人の技術者(うち1名は日本人技術者)が立ち上げた会社である。取締役にはスタンフォード大学のDaniel Okimoto名誉教授、西義雄教授が名前を連ねている。

残りの二社はまったく日本人と関係のないベンチャーだった。LuminateはNetscapeとLiveOpsの元社員が設立した企業で、静止画像を広告用コンテンツに変換する技術を売り物にしている。既にベンチャーキャピタル2社とGoogleが投資している。もう一社はCreazaと言う会社で、ビデオ画像を使ったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を構築している企業であった。Facebook、Twitterといった既存のSNSを使わずに、クラウド・コンピューティングで独自のウェブサービスを展開しているところに特徴があった。

日本から来た起業家はほとんどが20代の若者であった。多くの若者が内向きになっている日本から、こうした行事に果敢にチャレンジしてくれたのはすばらしいことだと思う。去年この会に聴衆として参加した方によると、日本からの発表者数も増えたし、質も格段に向上したという。会場に集まった聴衆の数は去年の300人から500人へと大きく増えた。その2/3は日本人であった。我々日本人聴衆も大いに元気付けられた。

その一方で疑問もいくつか生じた。筆者は今までベンチャー企業の発表会に多数出席してきた。こうしたコンファレンスに参加する聴衆は、ベンチャーキャピタリスト(VC)で埋め尽くされているのが通例である。VCはコンファレンスに参加して、将来の有望な技術を開発しているベンチャーの発掘を行う。コンファレンス終了後に、こうしたベンチャーにアプローチして投資を持ちかけるのだ。

だが今回の発表会では、VCの参加は殆んどなかった。少なくとも当地一流VCの出席は皆無だった。主催者は有力VCを会場に呼んで発表させるべきではなかったのか?VC不在のプリゼンはコンファレンス本来の意義から遠く、この会合を単なるお祭り騒ぎに仕立てているように思えた。

次の疑問は、日本からのプリゼンはいま世界が注目している環境・エネルギー、ITを使ったヘルスケア、ナノテクを使った材料開発の分野に少なかった点だ。mOasisとZeptorがホットな分野に挑戦して受賞したのは当然な結果である。この地にいれば、今どの分野の技術がホットか自然に分かる。mOasis、Zeptorともにシリコンバレーに本拠があることも注目される。

発表会と表彰式をはさんで、当地のマスコミの座談会があった。当地の代表的な新聞とベンチャーの記事を多く掲載する雑誌の記者が登場するのかと思ったが、実際に登場したのは当地で活躍するドイツ、ポーランド、インド、フィンランドの記者達だった。やや意外ではあったが、面白い発言があった。

「ドイツではシリコンバレーを真似しようとして色々なValleyが国内に作られたが、そのすべてが失敗終わった。」「フィンランドでも同様に真似をしたが、結局成功しなかった。いま自国の事情に会ったValleyを作ろうとしているが、まだ見つかっていない。」と述べたことに注目した。フィンランドはオープンソース・ソフトウェア(無料で配布されるソフトウェア)を生んだ国である。そのフィンランドでも失敗したと語ったのは意外だった。

確かにシリコンバレーにはベンチャーを支えるエコシステムがある。ベンチャーの立ち上がり段階で小額の投資(1000万円台の投資)で支援するエンジェル投資家、ベンチャーが立ち上がってきたら大きなリスクをとって高額の投資(億円単位の投資)をするVC、ベンチャーを上場(IPO)させたり合併・買収(M&A)を仲介する投資銀行、人材を斡旋するヘッドハンターといった専門家集団を指す。

こうした専門家集団がエコシステムを支えているのは事実であるが、何といっても主役は「人」である。新しいことに挑戦するのが大好きな「オタク的な」技術者、多少の失敗があってもへこたれずに再挑戦するチャレンジャー、ベンチャーで成功してお金持ちになることを夢見るドリーマー、修士や博士がゴロゴロいる高学歴人、オープンに誰とでも意見交換する自由人、人種偏見をしない民主人。彼らがシリコンバレーの主役である。

日本人は文化的に見るとシリコンバレーと対極にある人種のように見える。他人と同じことをして、且つ、競争しないように躾けられた幼年時代、親の期待を背負って、せっせと塾に通い、一流大学に入学して一流企業に就職するように育てられた青年時代、自己の能力を発揮するよりは、周りの「空気」をよく読んで行動するように諌められたサラリーマン時代、こうした様々な教育を通して多くの若者はシリコンバレーとは正反対の人種になってしまう。

日本にはベンチャー企業を支えるエコシステムが殆んど存在しないと言ってよい。初期ベンチャー企業に投資するエンジェル投資家はいないに等しいし、VCは横並び小額投資に終始し大きなリスクをとりたがらない、証券取引所は利益を計上できないベンチャーの上場(IPO)を嫌がり、企業は成長の手段として合併買収(M&A)を選択肢に入れていない。伝統的企業は技術の自主開発に拘り、買収によって異質な人材が社内に入り込むことを嫌う。こうした諸事情がベンチャーの出口戦略(Exit Strategy)を妨げ、ベンチャー育成を難しくしている。

それならばいっそのこと日本の起業家はシリコンバレーにきたらどうだろうか。ここで当地のベンチャー企業と対等の競争をしたらよい。淘汰されるものも多かろうが、成功する道筋は確実にある。今回、日本人がチームの中核メンバーとなっているmOasisとZeptorが表彰されたのは、こうしたトレンドの起爆剤になるような気がする。

ベンチャーにやさしくない日本で、ベンチャーを起こそうと思ったら、金を掛かけずに簡単に出来るSNSを使った軽いアプリケーションを開発するのが手っ取り早い。だがこうしたアプリケーションをわざわざ人前で発表する必要性は乏しい。自分でアップルのアプストアに登録するれば済むことだ。そうではなくて、いま世界のベンチャーが開発しようとしている分野でユニークな技術を開発して競うことが必要なのではないだろうか。

そうすれば、この発表会は日本発の新技術やユニークなビジネスモデルを披露する場所として賑わいを見せるだろう。当地の一流VCにとっても参加価値のあるコンファレンスとして認識されるに違いない。米国のメディアもこのイベントに注目するだろう。

この行事Tanabata 2011 Festivalは第二回目のイベントである。参加者が支払う入場料40ドルのうち10ドルは東日本大震災の被災者への寄付に当てられるという。発表会の後、樽酒の鏡割りもあり、七夕気分で日本人コミュニティーの親睦の場になっていた。

だが、いつまでもこの形式でイベントを続ければ、日本のガラパゴスをシリコンバレーに持ち込んだだけになってしまう。来年以降、この場がシリコンバレーの一流VCの審査を受ける日本発ベンチャーの登竜門になるように改組できないだろうか。そうすれば、シリコンバレーでの成功を日本に持って帰り、日本のベンチャー業界が活気を取り戻せるのではないだろうか。




カリフォルニア州メンロパーク市にて
安藤 茂彌
ダイアモンドオンライン「シリコンバレーで考える」に掲載(2011年8月17日)