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日本を標的にした米クリーンテック戦略に日本は抗しきれるか アメリカがクリーン・テクノロジーで他国を凌駕する具体的な戦略に動き出した。中心人物は米国エネルギー省のスティーブン・チュー長官だ。同長官は97年にノーベル物理学賞を受賞した学者で、地球温暖化問題に強い関心を向けており、オバマ大統領の信頼が厚い。 オバマ大統領の誕生まもなく、長官はエネルギー省の内部のARPA-E(Advanced Research Projects Agency-Energyの略)と呼ばれる組織に360億円(4億ドル)の予算権限を与え、アメリカ全土の大学や企業からクリーン・テクノロジーに関する「斬新」なアイディアを公募することにした。また、ここでいう「斬新」について明確な定義を与えた。具体的には応募して「欲しくない」プロジェクトと、応募して「欲しい」プロジェクトとに分けて、それぞれを規定した。 まず、応募して「欲しくない」科学・技術については次のように規定している。①現行技術を単に改善・改良する技術、②基礎研究、③長期に渡るプロジェクト、④大規模なデモンストレーションを要するプロジェクトである。即ち、「真に革新的な」技術で、早期に応用できるプロジェクトでなければ応募資格がないとしている。 応募して「欲しい」科学・技術は次のように規定している。①インパクトの高いプロジェクト、②実行部隊が精鋭揃いであること、③技術的難関を突破する耐久力を持っていること、④概念(コンセプト)が明確で、試作品(プロトタイプ)ができているプロジェクト。即ち、単に画期的なだけでなく、実現可能性が見えていて、それを実現できる精鋭が揃っているプロジェクトに応募して欲しいとしている。 自分たちには応募資格があると考える大企業・ベンチャー企業・大学・研究機関が数多く名乗りを上げた。総数は3700件に達した。エネルギー省はその中から実現性・即効性に乏しいものを篩い落として、最終的に338件の応募書を受理した。 長官は、全米の研究者・企業・政府機関の専門家に応募書のレビューと評価を呼びかけ、500人の専門家を動員した。その中にはボランティアとして無給で参画した人も多かったという。彼らが延べ8694時間かけて最終的に37件の応募書を選び、それに資金援助をすることにした。プロジェクトのスタートから僅か8ヶ月間のスピード作業であった。 資金援助と言ってもたいした金額ではない。総額約140億円(1億5100万ドル)程度で、一件当たり4億円にも満たない。残りはベンチャーキャピタル等からの民間の投資資金や、制度金融を活用する必要がある。たとえ金額が小さいとはいえ、政府が国家的観点からプロジェクトの重要性を認識し、お墨付きを与えることは、プロジェクトに民間資金を呼び込む上で有益である。 ではどのような組織が助成金を獲得したのか。ベンチャー企業が43%、大学・研究機関が35%、大企業が19%、NPO(非営利団体)が3%の割合である。ベンチャー企業が資金の最大の受け手となったのは、さすがアメリカである。日本であれば、大企業や政府系研究機関がずらりと顔を揃えるだろう。 これを技術分野別に見ると、エネルギー貯蔵6件、バイオマス5件、炭素回収5件、ソーラー燃料5件、自動車用技術5件、再生可能エネルギー4件、ビルの省エネ化3件、その他4件となる。 特徴的な点はいくつかある。まずエネルギー貯蔵の分野で多くのプロジェクトが選ばれていることである。電池開発には様々な技術があり、ナノテクノロジーを多く取り入れたものが散見される。また、レアメタルを使わずに、米国内で貯蔵量豊富な安価な材料を使って新技術を開発することも、選別の重要ポイントになっている。 炭素回収に関する技術もたくさん選ばれた。その多くは石炭火力発電所から出る排ガスから二酸化炭素を隔離する環境技術である。発電量の半分を石炭に依存する米国では、これが喫緊の課題になっている。また、自動車の排ガス・廃熱への対応と、燃料電池の開発にも、積極的に取り組もうとする姿勢が見える。 海外からの石油輸入依存度を下げることも、米国の重要な国家戦略である。その方法としてバイオマスとソーラー燃料が選ばれた。バイオマスでは海藻を使ったバイオ燃料生成技術が含まれている。ソーラー燃料(Direct Solar Fuel)とは、微生物や触媒を使って、太陽光・二酸化炭素・水から直接炭化水素(燃料)を生成する技術である。太陽電池(PV)のように光・電気変換を介在させないので、コストメリットが大きく、持続可能な技術である。 ビルの省エネ化にも資金を出すことになった。ビルのエネルギー消費量は全電力消費量の4割を占める最大のセクターである。ここでエネルギーの損失を抑えられれば、必要発電量を大きく削減できる。こうした技術の一つとして、光の透過率を変化させる“スマート窓”が提案されている。 今回の資金支援(140億円)はARPA-Eによる第一ラウンドの支援で、残りの資金(220億円)を第二、第三ラウンドで配分する計画でいる。第二ラウンドは既に始まっており、全く別の技術を探索している。筆者が運営するデータベース(ベンチャーアクセス)では、こうした技術の詳細を継続的フォローしていく予定である。 今回のプロジェクトの狙いは何か?クリーン・テクノロジーの分野で米国がリーダーになることにあると明確に述べている。90年代にIT革命を起こし、主要IT技術のほぼ全てを握ったアメリカが、今度はクリーン・テクノロジーでも覇権を確立しようとしている。 追撃の標的になっているのは日本である。説明資料の中で、「太陽電池、ハイブリッドカー用電池といった技術の優位性は今やアジアに行ってしまった」という表現が出てくる。アジアとは日本を指しているのだ。米国は失われた優位性をもう一度自国に取り戻し、世界ナンバーワンになることが目的なのだ。 では追撃される日本の状況はどうか。事業仕分けで忙しい。独立行政法人に隠されている資金を剥がして、余計な仕事を合理化し、国家予算の不足分を捻出する作業であるが、これを科学技術の分野に適用するには注意を要する。 スーパー・コンピュータに関する仕分け作業のときに、民主党の蓮肪議員が「世界一を目指す理由は何か、2位では駄目なのか」と発言して話題になった。これにノーベル賞科学者らが「1位を目指さなければ2位、3位にもなれない」と猛反発した。その通りである。 ただ、科学技術なら何でも支援するというのでは無駄が大きい。日本企業が国際競争を展開する上で是非とも強化しなければならない分野を特定し、そこに重点的に予算配分をするべきである。米国ではこうしたプロセスをオープンにし、短期間の総力戦で技術選別をした。日本でもこうした手法を取れないだろうか。 過去20年間で日本技術の優位性はガタガタになった。ITでは主要技術を根こそぎ米国に持っていかれ、家電ではアメリカ・韓国・台湾・中国に優位を許し、自動車ではトヨタがリコール問題で躓き、日本車の評価を大きく下げた。日本の戦略的輸出産業が次々に精彩を失っているのである。これに加えて、環境技術でも米国に優位を許したら、日本は何で生きていくのだろうか。 日本は今こそ国家戦略をドラスティックに見直さなければならない。後ろ向きの「事業仕分け」に時間を費やしているときではない。「技術仕分け」で真に戦略的な技術を絞り込むことが必要なのだ。科学技術から資金を「剥がす」時ではない。むしろ資金を「つける」時なのだ。そうしなければ、日本は早晩「並み」の国家になってしまうだろう。 参考資料—ARPA-Eが抽出した技術一覧 1 エネルギー貯蔵
2 バイオマス
3 炭素回収
4 ソーラー燃料
5 自動車用技術
6 再生可能エネルギー
7 ビルの省エネ化
8 その他
カリフォルニア州メンロパーク市にて |