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最新レポート
私はサブプライム?

筆者は米国シリコンバレーに住んで11年になる。今年3月に米国の自宅を担保にして住宅ローンを借りた。これが最初ではない。今まで自宅の価格が上がり、お金が必要になると、これを担保に借り入れを繰り返してきた。借り入れたお金の使い道は、自宅の増改築に限定されない。使途は自由である。筆者の場合には筆者が経営する会社の運転資金に充当してきた。

自宅を所有するといろいろな金融機関からローンの勧誘がある。担保価値が上がったからお金を借りたらどうだ。今なら金利は安い。金利の高いクレジットカードの借り入れを返済したらどうだ。セール文句は様々である。勧誘は郵便物で来る場合もあり、メールやファックスでくる場合もある。時には直接電話をかけてくる場合もある。

勧誘してくるところは金融機関に限らない。金融機関に取引をつなぐブローカーが勧誘してくることも多い。時には煩わしくもあるが、便利なこともある。普通の人は自分の住んでいる自宅の担保価値がどうなっているのかを気にしていない。しかし、ブローカーはローンを売り込むために担保価値を無料で調べて、現時点での借り入れ可能額を知らせてくれる。

借り入れの交渉は通常電話だけで済んでしまう。話が決まると借入契約書の調印、抵当権設定契約書の調印を行わなければならないが、日本のように借入人が金融機関に出向く必要はない。彼らが書類を用意して自宅まで来てくれる。それも金融機関が来ることは稀で、大抵は公証人が来て金融機関の事務を代行する。ブローカー経由の場合には、ブローカーが来て事務手続きを代行する。

アメリカで住宅ローンを借り入れることは手軽にできる。金融機関かブローカーがすべてお膳立てをしてくれる。日本の銀行のように敷居は高くないし、こちらが頭をぺこぺこ下げることもない。ましてや借金する罪悪感に駆られることもない。むしろ貸し手がそこまで言うなら借りるかといった強い立場で借り入れをできる場合も多いのである。

今年の3月にもいつもの調子で借入をしようとした。しかし何か変なのである。交渉の途中でストップがかかってしまった。ブローカーによると、ある中小金融機関がリスクの高い住宅ローンをたくさん抱えて倒産するとの噂が出ているので、マーケットの動向を見たいとのことであった。この頃からサブプライムという言葉を聞くようになった。これは低所得者向けのリスクの高い住宅ローンを指す。

筆者はアメリカで事業を経営する自営業である。残念ながら個人としての収入は多くない。2006年度の個人所得の申告期限は4月である。申告期限前に借入をしておきたいのが真意であった。交渉がスムーズに展開しないことから推すと、どうも筆者はサブプライムの借入人と疑われているようであった。

交渉は再開された。ブローカーは筆者の会社の事業見通しについていろいろと質問をしてきた。当方は明るい見通しであると説明した。ブローカーは納得していろいろと条件を提示してきた。金利はあまり高くなかった。返済方法には様々な種類があるという。その中に、金利の全額を支払わないでも済むユニークな返済方法があった。

これはおかしいと思った。支払われない金利はどうなるのだ。ブローカーはこの分は繰越金利となって元本に上乗せされて行くのだという。つまり、この返済方法を選択すると借入元本がどんどん増えてしまう。どうしてこんな条件を認めるのかと質問すると、これは借入人が将来資金的な余裕ができた時に支払えば済むように、借入人の便宜を考えた返済方法であると言う。

先方はこの返済方法を薦めてきたが、元本が増えていく借入には抵抗があった。不健全な借り入れであると感じた。結局、金利はすべて支払って、元本も少しずつ返済していく方法を選択することにした。この条件で先方と合意した。調印には先方が拙宅に出向いてくるという。先方の会社のあるサンタモニカからだと5−6時間はかかる。それでも来るという。

現れたのは30歳半ばのやや体重過多の好青年であった。拙宅の担保価値はもっと高いのではないかという。その上、弊社の事業も気に入ってくれた。もし、弊社が近々公開する予定があれば投資をしたいという。当方はその予定はないので、丁重にお断りした。

彼は住宅ローンのブローカーとしてすでに数年働いているという。夫婦共働きで小さい子供もいるという。この商売は紹介先金融機関からの手数料収入を得られるので旨味があるという。ただ、悩みもあるという。

筆者のような自営業者へのローンは商売が順調に行けばきちんと返済をしてくれるが、所得の低いサラリーマンへの住宅ローンは心配だという。給料が上がる見通しは少ないし、レイオフされたら一気に返済不能に陥ってしまう。既に多重債務を負っている低所得サラリーマンが多いという。こういったローンは不良債権になる確率が高いという。

彼としては早々に不良債権になりそうなローンの紹介はしたくないが、金融機関の住宅ローンを巡る競争は激しく、かなり危ないローンでも引き受ける金融機関が後を絶たないという。住宅ローンを取り込み続けたい金融機関がある以上、彼としては収入になるのでやるのだという。良心の呵責にあっているようであった。

数日後、筆者のローンは無事実行になった。しかしその後一ヶ月して貸し出しをした金融機関が別の金融機関に変更になったとの連絡があった。今後は新しい金融機関に返済をするようにとの指示が来た。どうも、筆者の借りたローンは転売されたようである。

あれから半年以上経った。いま世界中がアメリカのサブプライム・ローンの処理状況を注目している。返済条件も多様であるし、転売も行われる。その上、こうしたローンを証券化するのも一般化している。不良債権に対する引当金を積み増し、赤字決算に陥る金融機関が続出している。それでもどこまで引当金を積めば済むのか、誰も確たることは言えない状況にあるという。

筆者はかつて日本の銀行員であった。90年代の不良債権の処理にも参画してきた。しかし、アメリカに住んで、住宅ローンを借りる側に回ってみると、日米の制度は大きく違うように思う。一口で言えば、米国では金融機関の貸し出しに対する節度が乏しいのである。金融機関間の競争に勝ち抜くために、条件を緩和してでも資産を積み上げようとする。リスクの吟味も甘い。ローン資産を容易に転売できることもリスク管理が甘くなる原因であるように思う。

借りる側から見ると、アメリカの制度のほうが便利である。日本と較べると、はるかに簡単に借入できる。だが、これが借入人の節度をなくさせているようにも思う。アメリカ人は貯蓄をせずに、借入をしてでも消費を続ける傾向がある。これがアメリカ経済の強さになっているのも事実だが、他方で借入しすぎて自己破産する人も多い。今回のサブプライム問題は、金融機関と借入人の双方の節度のなさが招いているように思う。

筆者のローンは当初サブプライムとみなされたのだろうか。たぶんそうだろう。いまこのローンを抱えている金融機関は引当金を積み上げているかもしれない。経営者は経営責任を問われているかもしれない。だが、いま筆者へのローンを保有している目に見えない金融機関に申し上げたい。「少なくとも筆者へのローンについてはご心配なく。節度のある日本の銀行の銀行員でしたから」。


カリフォルニア州メンロパーク市にて
安藤 茂彌 (2007年11月12日)

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