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最新レポート
欧米に見る移民の教訓

米国は他国から人が移り住んで出来上がった移民国家である。40年前までは欧州からの移民を優先させてきた。1965年の移民法改正で、欧州からの移民枠を4割ほどに抑え、中南米とアジアからの移民に広く門戸を開くようになった。その結果、中南米から多くの移民が入ってきたが、同時に正式の手続きを踏まない不法入国者も数多く国内に抱えるようになった。特に国境を接する隣国メキシコからの不法移民が多い。

そこで86年に法律を改正し、国内に一定期間以上居住している不法入国者に市民権を与えるとともに、それ以降の移民条件を厳しくすることにした。具体的には、不法移民を雇用する雇用者に刑事罰と罰金を科する一方で、国境での入国チェックを厳しく管理することにした。90年には更に法律改正を行い、高い技術とスキルを持った外国人を誘致するために、受け入れ企業の雇用を前提に、永住権まで含めた移民条件の大幅緩和を実施した。

こうした選別的移民政策が功を奏し、90年代のアメリカ経済は見違えるほどに復興した。技術とスキルを持った外国人に与えられるH-1Bビザの発給枠は、従来の65,000件から2001年には195,000件にまで拡大された。このビザの発給なくして、シリコンバレーの隆盛はなかったといってもよい。だが、2001年の同時多発テロ事件がこの状況を一変させてしまった。

2001年には米国愛国者法が成立し、2002年には国土保安省が誕生し、移民業務を担当してきた移民帰化局は解体されて、国土保安省の一部門になった。同時に、税関と国境管理業務も同省の下に移された。こうした事情からビザの審査も厳しくなり、H-1Bビザの発給枠はテロ発生以前の65,000件に凍結されてしまった。

米国政府の課題は、アメリカ経済が必要とする移民は確保しながらも、如何にして不法移民を減らすかにある。1200万人(人口の4%)とも言われている不法移民が農業労働者や建設労働者として3K(危険、汚い、きつい)を担ってきている。この層が米国の農業・建設のインフラを支え、国際競争力の源泉ともなっている。単に帰国させるだけでは問題の解決にならない。そこに米国の移民政策が一筋縄ではいかない苦労がある。

ブッシュ大統領は一定の条件の下に、不法移民の就労合法化や永住権取得に道を開こうとしたが、2007年6月に議会で審議継続が否決され、法案は事実上棚上げにされてしまった。2008年の大統領選で、この問題とイラクからの撤兵問題が大きな争点になると言われている。

ではヨーロッパはどうであろうか。まず大きな流れとしてEU諸国間の国境を撤廃して、その中では人が自由に往来し、自由に働く場所を選べるようにする計画が進行中ある。旧加盟国15カ国の間ではすでにこれが実施されている。2004年に新規加盟した10カ国(主に東欧)にすぐにこれを認めると自国の労働市場が混乱するので、旧来からの加盟国の多くは一定の経過期間をおいて認めることにした。

英国の労働市場は長い間、英連邦諸国とEU諸国に限定して開放してきた。しかし1962年に移民法を改正し、インド、パキスタン、ジャマイカ等からの移民については許可制に変更して流入を厳しく制限した。その結果、90年代半ばまで大きな流入はなく安定していた。その後英国政府は、国内の不足する労働力を外国人の流入で積極的に賄う方針に変更した。旧EU諸国の人々はビザなく英国で就業できるようにし、それ以外の外国人へも毎年10数万の規模で就業許可証を発行してきた。この結果、外国人就業者数は2003年の時点で140万人に達した。

流入をさらに加速させたのは、2004年のEU新規加盟国への市場開放である。多くの旧EU諸国は10カ国の労働者が自国の労働市場に流入するのを一定期間禁止する措置を取った。しかし英国政府はこうした措置を取らずに、入国者が英国内で職を得てから事後登録させる方式を選択した。この結果多くの外国人労働者が英国内に流入し、その中には多くのアジア・アラブ系移民もまぎれて入国した。

英国には現在多くの外国人が住んでいる。その中には、460万人の有色外国人(英国人口の8.1%)がおり、アジア・アラブ系の比率は4.1%、アフリカ系の比率も2%に達している。こうした状況中で2005年7月にロンドンで地下鉄とバスを狙った同時爆破テロが発生した。今年6月には、グラスゴー空港に車が突っ込み炎上する事件が起きている。いずれもイスラム系移民が絡んでいるとみなされている。

英国政府はこれに対応して、@国境警備を強化する、A政治亡命者を厳しく制限する、B移民者への市民権の授与を慎重に行い、市民権剥奪も弾力的に行う、C国外退去を行い易くする等の方策を打ち出した。同時に、イスラム系の居住者には「英国人らしさ」を教育して同化しやすいように誘導することにした。しかし移民法そのものは改正せずに、運用で乗り切ろうとする政策を取っている。

ではもうひとつのテロ被害国スペインはどうか。スペインの外国人居住者数は111万人(人口の2.5%)と英国より少ない。旧EU加盟国の国民は許可なくスペイン国内で働ける。外国人居住者の半分は旧EU加盟国から居住者であるが、モロッコ人(23万人)、エクアドル人(8万人)、コロンビア人(5万人)等アフリカ、中南米からの移民も多い。このほかに不法移民は120万人ほどいると推定されている。

スペイン政府は従来から、国内労働力の不足を補うため積極的に移民を活用してきたが、移民の管理は杜撰であった。そのため86年のEU加盟に際して、他のEU諸国から厳しい移民管理を義務付けられた。だが加盟後も不法移民の数は増え続け、これを是正するため、96年に一定人数を合法化する特例措置をとり、その後も数回にわたって同様の合法化措置を行っている。

同国政府は不法移民を制度に取り込むことで管理しやすくなると説明しているが、他のEU諸国は自国への流入をおそれ、厳しく批判している。こうした中で、2004年3月にスペインのマドリッドで朝の通勤列車を狙った大規模は同時多発テロが発生した。

不法移民を合法化したのは隣国フランスも同様である。この国に居住する外国人(二世・三世を含む)は総人口の17%にも達する。人口の多い順に見てゆくと、アルジェリア人が58万人、モロッコ人が52万人、その他アフリカ系が40万人にも上る。同国の今までの移民政策は不法滞在者でも長年居住すれば家族も呼べる緩やかなものであった。その上、97年には大量の不法移民を合法化する等の特例措置も取っている。

2006年に当時内務大臣だったサルコジ現大統領が「選択的移民政策」を提唱し、スキルのある外国人の移民は優遇するが、スキルのない不法移民については、強制送還も辞さない強硬措置を取ることに方向転換した。また、永住権や市民権を得たければ、フランスの価値観に同化することを宣誓させることも条件にした。

ドイツは、これら諸国とは異なる政策を取ってきた。この国も国内労働人口の不足を外部から補ってきた国であるが、ドイツ人労働者を優先させてきた。戦後海外に離散していたドイツ人を計画的に帰国させて不足に対応してきた。東ドイツ統合後は同国のドイツ人も取り入れた。ドイツ人以外では、イタリア人、スペイン人、ギリシャ人等の近隣国の労働力を「ゲストワーカー」として短期滞在させ、その数も国別に割り当てて管理してきた。

それでもドイツ国内には730万人の外国人居住者がおり、人口の9%に達する。その大半は「ゲストワーカー」だった労働者の一部が定住した人々で、トルコ人、旧ユーゴスラビア人、イタリア人、ギリシャ人が多い。厳しく管理する一方で、2000年には国内で生まれた外国人の子供に市民権を与える緩和措置を取るとともに、IT技術者にはグリーンカードを発給する戦略的政策も取り入れている。同化政策にも熱心で、同化しない移民は本国に強制送還する強硬措置も辞さない姿勢を取っている。

欧州の例を見ると、旧植民地であった国からの移民が多い。これは長い歴史の中で形成されたもので止むを得ない面もある。しかし、近年の移民政策とテロ事件の発生をあわせて観察すると、いくつかの教訓が目に付く。@杜撰な移民管理をすると、すぐに不法移民が増える。A一旦入国させてしまうと、定住される覚悟が必要になる。B同化の難しい民族を受け入れると、国内の治安が顕著に悪化する。

では日本はこの問題にどう立ち向かえばよいのだろうか。日本はきわめて同質国家である。日本は欧米と比べると外国人登録者は200万人で人口の1.6%と少ない。外国人登録者の半数以上が韓国・朝鮮、中国・台湾からの永住者で同化度も高い。移民国家アメリカとは大きく異なる。これまでの移民は南米の日系人の帰国を優先するなど慎重な姿勢をとっている。日本の移民はドイツ型に近い。ほかにビザ期限切れの不法残留者が19万人いる。

日本もこれから少子化、高齢化が一層進み急速な人口の減少が見込まれる。労働生産性の大幅な上昇がない限り、労働力を数の増加で補うしかない。そうしなければGDPは縮んでしまう。労働力不足に対処するには外国人の移民を認めるしか方策はないのだろうか。

欧州の例を見ても、移民が大量に入っているのは医療(医師、看護師、介護師)、建設、農業、サービス等の業種である。この分野を外国人に頼ることなく日本人で賄えないだろうか。日本人の老年人口が大きく膨れることを考えると、この分野の仕事を若い人に担わせるのは不可能である。老年人口の活用がどうしても必要になる。介護にしても、若い老人が年老いた老人を面倒見るしかない。

日本はこれから若年層のすべてが大学に進学する時代が来る。世界でも稀に見る高学歴社会が到来する。こうした人々が3Kを引き受けるだろうか。そうさせることが社会にとって効率的な人材活用法だろうか。この面からも社会の第一線から引退した60歳台の若い老年層と、寿命の長い女性に3Kを引き受けてもらうしかない。

そのために、体力の衰えてくる彼らに仕事をしてもらうための技術開発が是非とも必要になる。例えば、介護病人の排泄物処理を自動化する携帯機器、集めた汚物をバイオマスに変換するシステム、無線通信を活用した在宅自動診断・看護システム、無線通信・RFIDを活用した建設作業システム等の開発が必要である。それによって3Kの仕事の多くを新3K(綺麗、気楽、簡単)に変えることができるだろう。

それでも3Kの仕事の労働不足は完全には解消できないかもしれない。だが、1960年台以降の労働力不足をロボットの開発で補い、移民をほとんど導入せずに生産性の向上で乗り切ってきた国民である。こうした脱移民の努力をまずしてみるべきだろう。ハイテク大国ニッポンが再び知恵を働かす時が来た。


カリフォルニア州メンロパーク市にて
安藤 茂彌 (2007年7月23日)

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