アメリカの世代交代
現在の米国社会は、4つの異なる世代が積み重なってできていると言う。沈黙の世代、ベビーブーマー、X世代、Y世代の4つである。それぞれの世代の生まれた年と労働人口構成比を示すと次のようになる。
| 世代 | 生まれた年 | 労働人口構成比 |
| 沈黙の世代 | 1946年以前 | 7% |
| ベビーブーマー | 1946年―1964年 | 42% |
| X世代 | 1965年―1977年 | 29% |
| Y世代 | 1978年以降 | 22% |
(生まれた年の期間は資料によって若干異なる)
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それぞれの世代は、総じて次のような特徴を持っていると言われる。もちろん個々に見ていけば例外が存在するのも確かだが。
| 世代 | 特徴 |
| 沈黙の世代 | 勤勉、強い義務感、自己犠牲、黙々と仕事する |
| ベビーブーマー | 自己実現意欲、楽観的、要領が良い、消費優先 |
| X世代 | 強い自立心、虚無感、斜に構える、責任回避 |
| Y世代 | 過保護、高い情報能力、高学歴、自信過剰 |
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ベビーブーマーが主役となっている今の社会も10年経つと構成割合が大きく変化する。沈黙の世代、ベビーブーマーといった「古い世代」がリタイアし、代わって、X世代、Y世代といった「新しい世代」が社会の中核を担う時代がやってくる。これによってアメリカ社会は大きく変貌すると言われている。
では新しい世代はどのような特徴を持っているのか詳しく見ていこう。まず、X世代は次のような環境で育ち、前の世代と大きく異なる特徴を持っている。
- 離婚が増加し、母親が働き始めたため幼年期に「鍵っ子」の生活を送った世代。将来に対する悲観的な見方を持ち、批判力が旺盛で、虚無感、疎外感を強く持つ。
- ベビーブーマー世代の価値観の継承を拒否した世代。感動を表に現さない人が多いため、「分からない世代」という意味で「X世代」と名づけられた。
- 80年代に両親がレイオフされたり、安定した雇用関係があっという間に不安定になったりするのを観察して育った世代。
- 彼ら自身も90年代の後半から、アメリカの職場が賃金の安い海外に流失して失業し、フリーターのような仕事に従事せざるを得なかった人が多い。
これに対し、Y世代が育った環境は大きく異なる。
- ベビーブーマーの親から大事に育てられた世代。過保護で甘やかされて育ったため、誰かが常にかばってくれると考えている。我儘な人が多い。
- 成長期にコンピュータが身近な道具になり、これでゲームし、仲間内でメール、IM、携帯でコミュニケーションをしてきた世代。
- 三分の二が大学に進学する高学歴集団。インターネットを使えば情報が自由に手に入ることを実感した世代。複数のことを同時にこなせる器用人で、自負心も強い。
- 心の底には不安が詰まっている世代。幼年期からオクラホマ市庁舎爆破、銃の乱射事件、セプテンバーイレブン、ハリケーンカテリーナ等の事件・災害を見てきた。
X世代とY世代では職場での対応姿勢に共通点がある。多くのレイオフや、M&Aに絡む人員整理をみて、もはや安定的な長期雇用関係を望むのは難しいと認識している点である。エンロン事件を経て、会社に対する猜疑心も大きい。そのため、会社に忠誠をつくすよりは、仕事本位で生きてゆきたいと願っている。
他方、相違点を見てみると、X世代が総じて自立心に富み、失敗しても立ち直りが早く、高い適応力を持っているのに対し、Y世代は総じて受け身で、反発力も弱く、仲間内に同調しながら生きるのが心地よいと感じている。問題が起きると自分だけで悩まないで、すぐに家族や仲間内に相談をする。Face-to-Faceのコミュニケーションよりは、メールでのさらっと意思疎通するほうを好む。
X世代が社会人となった80年代後半には、それ以前の世代との激しい確執があった。旧世代はX世代を、責任回避者・怠け者と呼び、X世代は旧世代を、自己中心的、気まぐれな偽善者、実践力のない拝金主義者と批判した。
Y世代が社会人となった2000年以降には、こうした感情的な反発は双方から見られない。ただ、仕事が分かっていないにも拘らず、一気に高いポジションを求めるY世代の「世間知らず」振りに、旧世代が辟易としている様子が伺われる。Face-to-Faceのコミュニケーションを重視しないことも旧世代は理解できない。会議の途中で突然姿を消してしまうこともあるという。
Y世代の6割が職場で何らかの摩擦を起こしているとの報告もある。X世代がY世代に反発するよりは、ベビーブーマーがY世代に反発する頻度が高い。これは家庭で起きていることの延長線上にある。ベビーブーマーがYの親の世代であるからだ。確執には至らないで、単なる摩擦で済んでいるのは、お互いに分かりあえる部分が多いからではないだろうか。
旧世代が新世代を引っ張っていくには、漠然とした愛社精神の植え付けでは無理がある。むしろプロジェクトベースで仕事を与え、素早く評価を還元することが、彼らのモティベーションを高く維持できる秘訣であるという。X世代を指導していくには仕事のやり方を大まかに示唆するほうが効果的であるのに対し、Y世代には「手取り足取り」でコーチングしてゆく必要があるとしている。
アメリカ社会では80年代後半から株主資本主義が定着し、雇用者は雇用の剥奪・不安定化と言う形で、労働者に大きな負担を強いてきた。労働者の多くは21世紀に入った現在でも、できることならあの幸せな時代に戻りたいと願っている。Y世代では、就職に当たって年金の充実している企業を選ぶ傾向があるという。親の言うことを良く聞くY世代では、親の安定化期待をそのまま反映して行動しているようである。
最近、Helicopter Parentsと言う言葉が出てきた。Y世代の親の中には、子供の就職に当たって、親が企業の人事部と直接交渉に乗り出すことが頻繁に見られるようになったと言う。彼らはヘリコプターのように常に自分の子供の頭上を旋回し、必要なときに着陸して子供を助けることから、Helicopter Parentsの呼び名が生まれた。
自立心旺盛といわれたアメリカ人も、Y世代では価値観が大きく変わってきているようである。現時点ではY世代が社会人になり始めたばかりであるが、総人口ではX世代の5100万人に対し、Y世代は7500万人と圧倒的に多い。これから2012年にかけてY世代の社会人は毎年10%増加する。労働人口でY世代がX世代を追い抜くのは時間の問題である。旧来の概念から見れば、「ひ弱」ともいえるY世代がやがて労働人口の最大グループになる。
では、Y世代主導のアメリカはどのように変わるのだろうか。たぶん優れたコミュニケーション能力を発揮して、今よりさらに早く意思決定をしていく社会に変貌していくだろう。会社に出勤しないで、自宅から通信回線を使って仕事をするのも一般化するだろう。企業内には互いに顔を知らない社員が溢れ、企業はますます仮想化していくだろう。
私にはいまでも、相手の顔を見て信頼度を確認しながらFace-to-Faceのコミュニケーションで仕事を進めるのが、ビジネスの基本のように思えるのだが。新しい社会は私の想像力の範囲を超えている。新しい社会についてこれ以上発言するのは止めよう。私は「沈黙の世代」の人間なのだから。
カリフォルニア州メンロパーク市にて
安藤 茂彌
日経ネット・企業・コラム・海外VBトレンドに掲載(2007年5月15日)
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