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最新レポート
シリコンバレーの予測(2007年)

3月22日にシリコンバレーの著名なベンチャーキャピタリストが集合した。当地で有力者を招いて話を聞く会合を企画しているチャーチル・クラブが主催したパネル討論会である。議題は「2007年の10大技術トレンド」である。会員限定のディナー付の会合である。

演台に座ったベンチャーキャピタリストは、ジョン・ドア(Kleiner Perkins Caufield & Byers)、スティーブ・ジャーベソン(Draper Fisher Jurvetson)、ロジャー・マクナミ(Integral Capital Partners)、ジョー・ショーンドルフ(Accel Partners)の四名。そして司会はトニー・パーキンス(AlwaysOn Network)である。シリコンバレー・コミュニティーの錚々たる人々の集まりである。

パネル討論会は、4人のパネリストと司会者のトニー・パーキンスがそれぞれ2問ずつトレンド予測して、他のパネリストがこれに賛否の意見を述べてディスカッションを行い、最後に会場の聴衆に賛成か反対かの判断を求める形で進められた。

1 モバイル・デバイス
2007年には斬新な発想で設計されたモバイル・デバイスが登場し、消費者の選択肢が増えるであろう。

今年6月にはアップル社からアイフォン(iPhone)が発売される。この携帯電話機は、電話、メール、カメラ、ビデオ、オーガナイザー、地図、ウェブブラウザなどの機能を満載したスマートフォン。この電話機には数字ボタンもキーボードもない。機能の選択、入力は指(時には二本の指)を画面に触れるだけで行える。

アメリカで成功を収めてきた機器には、機能特化した機器が多かった。ブラックベリーはメール専用だし、アイポッドは音楽・ビデオの再生専用であった。今後も専用機が成功するのか、それともアイフォンのようにすべての機能を備えた機器が成功するのかはわからない。

2 ブロードバンド・ネットワーク
連邦通信委員会(FCC)は2007年中に高速無線通信用に新たな周波数帯を認可すると言われる。そうなれば、携帯電話機がPCを代替する傾向はいっそう強まるであろう。

インテルもワイファイとワイマックスの両方に使えるチップを市場投入するだろう。ワイマックスでは50マイル(約80Km)に通信距離が拡大するので、無線ですべてが済むようになる。地域電話会社がADSL市場を独占し、ケーブルテレビ会社がケーブルによる通信市場を独占する有線の時代は終わろう。アイフォンのような携帯電話機でありながら、PC同様の機能を備えた機器が市場を席巻し、消費者の“PC離れ”は更に進むであろう。

3 ウェブ2.0企業
今年から消費者向けウェブ2.0企業の大規模な淘汰が始まろう。

これは司会者トニー・パーキンスの持論である。90年代後半に消費者向けドットコム企業が乱立し、株式市場の急落とともに大量倒産した現象と重ね合わせている。これに対しパネリストは全員異議を申し立てた。その理由はベンチャーキャピタルの投資資金が潤沢であり、ウェブ2.0企業への投資資金が当面枯渇するとは考えにくいからとしている。

4 ウェブ2.0技術
消費者向けに開発されたウェブ2.0技術は今年から企業やメディア向け応用されよう。特に、コミュニティ型、コラボレーション型、ウィキ型技術の応用には期待できる。

5 ムーアの法則
ムーアの法則は二股に分かれ、メモリの技術革新がロジックの技術革新に先行する期間が数年間続くことになろう。

ムーアの法則は、「半導体の技術進歩は18ヶ月の周期で性能が二倍に向上し、価格は二分の一になる」ことを指す。メモリはナノテク、分子工学の発達で急速に進化するのに対し、ロジックの発達はこれに追いついていけない。今後もムーアの法則は全体として有効ではあるが、メモリとロジックは同時並行的には進歩しない。

6 アクティブ・メディア
消費者は予め制作された番組よりは、実況中継のような生の番組を選ぶようになる。その結果、メディア制作会社の地位は低下し、広告会社は新たな対応を迫られよう。

消費者がネットで過ごす時間が長くなり、テレビと向かい合う時間が減ってきた。DVD録画機の普及でテレビ番組を録画して後で観ることが増えてきた。そのときには広告を割愛して観る。その結果、広告主は生番組(アクティブメディア)には高い広告料を支払うが、その他の番組には価値を置かないようになってきている。

7 合成生物学
生物学に工学を取り入れた合成生物学がこの2−3年で大きく前進しよう。

合成生物学とは、微生物に遺伝子操作を施して微小な機械のように動かし、薬剤やプラスチック、代替燃料を安価に大量に生産しようとする新しい生物学である。

8 脳
脳の障害が引き起こす病気の治療法が大きく前進しよう。

シリコンバレーには脳神経学に基づく新たな治療法の開発を目指すベンチャー企業が100社ほど出てきた。脳の解明が進むことで、従来の精神病は単に脳障害と認定され、その治療法が飛躍的に改善されることになろう。この分野で米国の優位性は揺ぎ無いものになろう。

9 温暖化対策
温暖化対策は21世紀の最も喫緊の課題であると同時に、最も大きな事業機会である。

米国は5.9ギガトンの温暖ガスを排出し、中国は5.8ギガトンの温暖ガスを排出し、排出量は増え続けている。一方でブラジルのようにこれを10%削減した国もある。温暖ガスのコントロールは今世紀最大のビジネスチャンスとなろう。

10 パワーシフト
その国の経済力の変遷が、ビジネスのやり方に大きな影響を与えるようになる。

BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の4か国の頭文字をとった造語)の台頭には目覚しいものがある。低賃金国の成長に伴って米国もビジネスの進め方を変えていかなければならない。石油主導の現在のビジネスはあまり重要ではなくなるのではないか。

チャーチル・クラブのこの催しは今年で9回を数える。ここシリコンバレーには、全米の多くのベンチャー企業に開発資金を投資するベンチャーキャピタルが集結している。他方、投資を受ける全米ベンチャー企業の約4割がシリコンバレーで活動をしている。聴衆の中にはベンチャー企業の経営者も多く参加している。

筆者はこの催しをゲーム感覚で楽しんでいる。パネリストが口角泡を飛ばして議論するのを観戦するのも楽しいし、聴衆一人一人が緑のカード(賛成)か、赤のカード(反対)を高く挙げて参加できるのも楽しい。ただ、このディナーで出される料理はいつ食べても美味しくない。まあ、あまり多くを望まないことにしよう。シリコンバレーは料理を上回る知的刺激を与えてくれるところなのだから。


カリフォルニア州メンロパーク市にて
安藤 茂彌
日経ネット・企業・コラム・海外VBトレンドに掲載(2007年4月16日)

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