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最新レポート
技術革新・新時代の主役

作るITから使うITへ

2004年は、ソフトウェア業界と無線通信業界で大手企業同士の大型合併が相次いで発表された年であった。データベースとERPソフトの大手企業オラクルが、競合企業ピープルソフトを敵対買収した。セキュリティソフトウェアの大手企業シマンテックはストレージソフトウェアのベリタスを買収した。

無線通信業界では、業界最大手のシンギュラーワイヤレスがAT&T ワイヤレスを買収して契約者4700万人を抱える巨大企業が誕生したと思ったら、今度はスプリントがネクステルを買収して、契約者数3850万人を抱える業界第三位の企業が誕生した。

これは何を意味するのだろうか。ソフト業界、無線通信業界ともに、技術革新と市場の拡大が減速し、合併統合によって寡占化しないと生き残れなくなってきていることを意味する。

ソフト業界では利益を上げるのが日に日に難しくなってきている。最大の原因は無料のオープンソースソフトウェアの急速な普及である。オペレーティングシステムを(OS)をリナックスにして、オープンソースのツールを使ってシステムを作れば、ただでシステムが出来てしまう。

リナックスOSの上で稼動するサーバの世界ではオープンソースのサーバが高いシェアを持っている。ApacheウェブサーバとSendmailメールサーバは、世界市場の6割超のシェアを握っているし、JBossアプリケーションサーバ、MySQLデータベースサーバ、Eclipse開発ツールも普及に弾みがかかる形勢にある。

企業向けアプリケーション市場では、データベース、顧客管理(CRM)、サプライチェーン(SCM)の大手業者ががっちり市場を押さえており、この分野が早晩ただになるのは考えにくいが、こうした業者でもリナックスOS対応バージョンを出さざるを得なくなっている。

リナックスOS上で稼動する無料のオープンソース・アプリケーションを開発する動きも出始めている。現時点ではまだベンチャー企業による試みの域を出ておらず、こうした動きが今後どこまで発展するかは全くの未知数であるが、ソフト価格の低下を招く一因となっている。

デスクトップ市場ではマイクロソフトのウィンドウズOSとマイクロソフトオフィスががっちり市場を押さえ、これに対抗する商品がすぐに普及する気配はない。つまり、ソフトウェア業界ではマイクロソフト以外は、ソフトウェアそのもので金をもうけることが難しくなっているのである。アプリケーション分野で残っている成長分野はセキュリティ、ID管理ぐらいしかない。

無線通信サービス業界も契約者数が今後爆発的に伸びることは考え難い。企業が社内ネットワークを無線化する動きはまだまだ続くだろうが、VoIPで内線と外線を統合したWLANシステムを作るところで1つの節目を迎えるだろう。通信プロトコルは現在普及中の802.11(Wi-Fi)と、その次のプロトコルであるWimaxで実用的には完成段階を迎える。

今シリコンバレーで話題を集めているUWB(Ultrawide Band)、メッシュネットワークもある程度普及する可能性があるが、限定された用途での適用に留まる公算が大きい。

ではITの時代は終わったのか。そうではない。企業がITを使って本来業務を改革して競争力をつけていく時代は、これから大きく花を開こうとしている。こうした分野に目を転じると、ICタグ(RFID)、医療画像処理、在宅診断、在宅治療、テレマティクス、センサーネットワーク等、まだまだ無線技術業者・ソフトウェア開発業者が活躍できる領域は残っている。


MEMSの世界

半導体でも地殻変動が起きている。従来の半導体は電気回路の製品であるが、この中に機械回路を埋め込む試みがなされている。MEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)は、半導体の中に中空部分を作り、ここにメカニカルな部分を埋め込み稼動させる半導体である。

最近筆者は全米のMEMS技術開発業者を何社かを訪問する機会を得た。大規模なクリーンルームを作り大量生産する従来型の半導体工場とは正反対の設備である。クリーンルームも比較的こぢんまりとしており、ウェハの大きさも4−6インチが主流である。まだ大量生産の段階に入っていないのでこれで済むのである。

しかしMEMSはやがて現在のメカニカルな器具を代替していくテクノロジーと考えられる。大きさは従来の数十分の一に、電力消費も少なく、価格も数十分の一にできる。MEMSセンサー(例えば、圧力、加速度、温度、傾斜、磁気センサー)は既に幅広く実用化されている。自動車のエアバッグ、スピン防止コントロール、ナビゲーション、サスペンション等の車両制御システム、インクジェット・プリントヘッド、光ファイバーネットワークのコンポーネント等がその例である。
今後はMEMSが日常生活や身体の一部に入ってくると予想される。洗濯機や皿洗い器の流水状態・液体の混合状態を分析するセンサー、温度、換気、空調、セキュリティ・センサーを通じたホームオートメーション、体液の流れを感知する微小流動チップ、薬を患部に集中投与するドラッグ・デリバリー、ペースメーカー等の埋め込み型デバイスなどである。これに伴ってMEMSを長期間稼動させる燃料電池も重要になる。


生体適合性素材

材料の世界でも大きな市場が広がろうとしている。ベビーブーマー世代がこれから60歳に達する。彼らが平均死亡年齢に到達するまでに約30年間ある。寿命を更に延ばすために、彼らの身体の一部を取り替えるビジネスは爆発的に拡大すると予想される。この分野を狙って多くのベンチャーが医療材料を開発している。

現在、多くの医療用インプラント(移植)は、チタンとステンレススチール合金でできている。これらの合金は生体適合性(人体組織と有害な反応を起こさない)がある。しかし、新しい材料がチタンから切り替えられつつある。例えば、ナノ結晶シリコンカーバイドが、軽量、高強度、超硬性、耐磨耗性,不活性、耐腐食性に優れていることから、人造心臓弁の候補材料と言われている。 

セラミック材料は硬く低磨耗で優れた生体的適合性があるため人工関節として好材料であるが、亀裂を生じ易いために平均耐用期間が10年位しかない。臀部と膝の人工器官のような整形外科インプラントは30年以上の耐用年数が必要である。

インプラントの使用寿命を延長するために、亀裂に対して高い抵抗性を持ち生体適合性に優れたアルミナ・ジルコニアのナノ複合体が研究されている。アルミナ・ジルコニアのようなナノ・セラミックスは極めて高い強度を維持しつつ、生体組織の成長を促すために多孔質にすることもできる。整形外科インプラントの場合、ナノ・セラミックスは、周囲の筋肉、靭帯、骨組織をインプラントの中に浸透させて強度を補強できる。

薬の投与を効率的に行なうドラッグ・デリバリー・システムも有望な分野である。短期的に見込みのある1つのテクニックは、医師が磁場を使って、磁性をおびた薬のナノ粒子を特定患部に運び、そこに熱や放射線を当てて、周囲の組織を損傷しないで患部だけを破壊する治療法も実用間近である。

MEMSによるドラッグ・デリバリー法(“バイオMEMS”)は、患者が次の投与を必要とする時期を知らせるセンサーを備えたシステムで、慢性病の治療に有効な方法である。糖尿病の患者がインシュリン投与が必要になったことをセンサーが感知すると、体内の人造筋肉(電気活性ポリマー)が形状変化を起こして、投薬装置のバルブを開く仕組みを研究している。

これからの技術革新は従来のように特定産業でおきるのではない。全産業・全企業が時代の主役になり得る。それだけに一層厳しい時代がやってきたように思うのだが。


カリフォルニア州メンロパーク市にて
安藤 茂彌
日経ネット・企業・コラム・海外VBトレンドに掲載(2005年03月7日)

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