Venture Access ロゴ
ログイン ログイン 加入案内 加入案内 会社概要 会社概要 お問合わせ コンタクト
ホーム 企業データベース 技術の潮流 デモ シリコンバレーコラム サービスについて ニュース
ホーム > シリコンバレーコラム > バックナンバー
バックナンバー
リアル、バーチャル、そしてリアル

2004年は、自然の猛威と、人の死をたくさん見せられた年だった。イラクでの処刑シーンから上越地震、果てはスマトラからスリランカ。通信とインターネットの発達は、災害と死を瞬時に生々しく報道した。しかし、こんな技術がありながら後進地域の10数万の命を未然に救えなかった。科学技術の発達が一部の人にしか享受されていないことを世界に知らしめた。

暮れにかけて日本に滞在したときに、NHKの“地球大自然”と題する番組を見た。50億年にわたって地球が幾度もの地殻変動を繰り返し、4000度の高熱に覆われた時期もあり、氷河に覆われた時期もあり、水がなくなった時期もあり、陸地が津波で全部埋没した時期もあった。最先端のコンピュータ・グラフィックスを駆使して生々しく表現していた。その日のニュースに出てきた光景とそっくりであった。片方はバーチャル、片方はリアル。

地球上を恐竜が闊歩した時代があった。巨大魚が海を支配したときもあった。しかし、強者であるがゆえに進化せず、自然が大きく変化したときに対応できず死滅してしまった。陸の弱者は地上に降りられず、木の上を渡りながら食料を確保した。その間に目の位置が横から正面に位置を変え、視力が飛躍的に発達した。巨大魚を恐れて海深く潜行した海の弱者には手と足が生え、肺を持つ魚も現れた。弱者であるがゆえに進化した。

こうした進化の最後の部分でサルが誕生し、更に進化して人間になった。まだ数万年前のことである。いまや人類は強者になった。地球の変動が教えるところでは、人類は強者であるがゆえに進化せず、いずれ滅びると言う。盛者必衰の理。

地球の人口は63億人。ここ30年で10億人余り増えた。しかし、先進国では少子化が進んでいる。米国、日本、ヨーロッパ共通の問題である。女性一人が生む子供の数は1.2人。東京では1を切った。原因は色々あろう。その一つの原因はバーチャルな世界の広がりではないだろうか。電車に乗ってみよう。半分以上の人が携帯とにらめっこをしている。人と人のコミュニケーションは早く楽になったが、バーチャルである。バーチャルでは女性は妊娠しない。

シリコンバレーにも産まない女性の予備軍がたくさんいる。英語学校を覗いてみよう。生徒の4割は日本人でその大半は女性である。職務のために英語を学んでいる人は少ない。目的のない人がいくら学んでも、英語で飯を食えるような職業人にはなれない。ビザには期限があるから刻々と帰国の日は近づいてくる。米国に残るには職業人ビザを取るか、アメリカ人と結婚するしかない。いずれも出来ない人は帰国してフリーターになる。転職を繰り返しながらやがて35歳をむかえる。

若い女性の選択肢は広がった。そして女性の寿命は目覚しく延びた。しかし、閉経年齢が伸びたと言う話は聞いたことがない。女性が子供を産める最終年齢は変わらずに、ただ社会環境だけが変わった。人類に進化があるならば、閉経年齢が70歳まで伸びても良かったはずである。自立心の強い女性ほど、このトリックに引っかかって迷走する。

アメリカでもこの現象に変わりはない。だから出会い系サイトは大流行である。でも何処で出会ったのかを親に話せず苦悩する女性も多い。バーチャルはこの国でもまだまだ認められていない。めでたく結婚まで漕ぎ着けても出産するには別のハードルがある。経済問題である。いつレイオフされるかもしれない状況では安心して子供を産めない。この点も日本と似ている。

今、日本を苦しめているのは、自由、個人主義、市場経済である。いずれもアメリカの真似をして起きた。30年前の日本にはそのいずれもなかった。当時日本人は幸福だった。自由と個人主義は、一見人々を幸福にするように見えたが、実は人々を孤独にした。市場経済は、一部の個人を幸せにしたが、大多数の人に不安を植え付けた。

正月のあるテレビ番組を見てギョッとした。2005年の予期せぬ災いを一言で言い表せと言われたときに、ある識者は“一人ぼっち”と書いた。この言葉は“核テロ”と並んで国家レベルの予期せぬ出来事を表したものである。アメリカに裏切られ、北朝鮮とは対立し、中国にはそっぽを向かれる可能性を表したものである。だが国家レベルにとどまるのだろうか。

ではどうすればよいのだろうか。ヒントはアゼルバイジャンにある。この国で経営学を教える日本人の友人がメールで克明に現地の様子を伝えてくる。結婚式は三日三晩続く。夫の家と、妻の家と、そして移動時間と。人間関係は濃密である。最後に男はグデングデンに酔っ払うらしい。だが地域社会の手厚い保護のもとで女性は安心して出産するのだそうである。

サルの世界では、集団で出産を見守り、集団で子育てを分担するそうである。後進国だ、動物だと馬鹿にしてはいけない。人間は動物である。動物には元々群れる性格がある。群れることによって外敵から種を守ってきたのである。

30年前にはサラリーマンは良く群れた。同僚と忘年会をやり、酔いつぶれた人。午後11時過ぎの新宿駅東口改札付近にはそういう人達が何人もいた。とぐろを巻く人、それを介抱する人。こうした人たちの年代層は広かった。今回、私も忘年会シーズンの真っ盛りに新宿駅東口を通った。大学生、二十代のサラリーマンで気勢を挙げている人は何組もいた。しかし、30代、40代、50代は少なかった。中年でとぐろを巻いている人は皆無であった。この年代の女性はほとんどいなかった。

今の日本にはフリーター、ニート、職を求めない若者が1000万人いるという。恐ろしい数字である。労働人口の5人に1人はこういう人たちである。彼らの社会との拘わり方は希薄である。人間関係もあっさりしているに違いない。しかし、どうしようもない疎外感と孤独に悩まされている人たちではないのだろうか。その他に自殺者は3万人いるという。これは先進国では頭抜けて高い数字である。
どうして日本にこういう人たちが増えてしまったのだろうか。日本は先進国である。日本人は強者であるがゆえに死滅の危機に置かれている種である。日本は先進国で人類の中で最先端を行っているがゆえに危険性が高い。危険性とは自己崩壊の危険性である。自殺者の増加と出生率の更なる低下である。

ある識者はローマ帝国の例をなぞって、独身女性には独身税をかければよいという。国税庁は喜ぶかもしれないが、効果はあるのだろうか。30歳以上の女性で高い所得を得ている人が何パーセントいるだろうか。低所得の高年齢女性に課税しては不幸の上塗りにならないか。それよりは、彼女達が安心して所属できるリアルなコミュニティを作ることではないだろうか。

アメリカでは、教会がこの役割を担おうとしている。信条を共有し、礼拝と言う集いの場を設けることで自然に結婚に結びつく環境を整備しようとする試みである。ただ、日本には宗教をベースにした環境作りは難しいような気がする。名案がない。

ひとつだけいえることがある。バーチャルはもう十分である。これからは人間が触れ合える場を作らなければならない。ふれあいの社会、人と人が肌を触れる距離で生活する社会。これが必要なのである。

私は暮れの忘年会の後に酔っ払ってタクシーに乗った。運転手に妙に感心された。「最近酒くさいお客さんがいなくなったんですよ」。私は自信を持った。「少なくとも私は今、リアルな世界に生きている」。


カリフォルニア州メンロパーク市にて
安藤 茂彌
日経ネット・企業・コラム・海外VBトレンドに掲載(2005年01月11日)

Copyright(c) 1999-2010 TransPacificVentures LLC, Menlo Park All Rights Reserved.